解体前夜

防塵の幕を張った足場が組まれ、明日からいよいよ業者が解体を始める。この日を何年も待っていた。
約束の日までに片付けられずに残っていた物は、業者に処分してもらうことになっている。
しかし、解体される家に荷物は山積みのままだ。


年が明けても、母はせっせとなにやら運び出していた。分別や整理をせずに現状のままで運び出すので、元にあった場所も運び出した場所も物の山だ。解体の数日前、私はこのままのペースでは解体開始までに間に合わないと感じ、手伝うことを申し出た。
「まずは、段ボールに必要な物だけを詰めよう。運ぶのはその後にした方がいい。」
などと話すと、いきなり皿や文房具が飛んできた。
「でてけー!今更!!!!あんた■○▽×▽□■!!!!」
なんだなんだ。ちょっと何言ってるかわかんないし。投げつけられる物は次第に大きくなり、最後は電子ジャーが私の後ろのガラス戸を粉々にした。
これから壊す家だとはいえ、正気の沙汰ではない。滅茶苦茶だ。「落ち着け。とりあえず。」と言うも、足元の皿を持ち上げながら「まだぶつけられたいのか〜!!!」とかなんとか叫んでいる。

母は年末から、私や父の片付けの手伝いを頑なに拒否し続けてきた。約束の日までに片付いていなければ、業者に全て処分されることになっている。私としては、むしろこのまま全部処分して欲しいが、さすがに必要な物は運び出すだろうと思い込んでいた。しかし、甘かったようだな。宿題が間に合わない小学生かっての。

そもそも一体何に怒っているんだ?
全く進まない状況を見かねて、「もう期限が近いけど、本当に間に合うのか?」としつこく問い詰めたことか?誰も手伝わなかったことか?それとも、片付けが出来ない自分に対しての苛立ちをこちらに八つ当たりしているんですか?

「近所の人が何か言ってても関係あるか!!!」「夜中に大声出させないでよ!!!」「徹夜でやんないと、ブツブツブツブツ…」とか、ヒステリックに叫んでますけど、このまま明日になってどうするつもりだ?

全部人のせいかよ。全て自分の責任でしょう。最低だな。半狂乱になった母を見たこっちが叫びたいよ。