解体当日

そして当日。
徹夜で作業していたのだろう。作業員が集まった現場に行くと、母はまだ荷物を片付けられずにいた。
数ヶ月前から、年末か年始に解体を始めることは決まっていた。にも関わらずこの有様だ。
「おばちゃん、10:00までだよ!それ以上は待てないから、中に置いてあるモノは全部こっちで片付けちゃうからね」
解体業者のおっさんの声が聞こえる。あと二時間弱か。それにしても惨めな最期だ。

同居の愚痴を息子にこぼし続け、建替えを夢見て義理の両親を面倒みてきた母。知らない土地に嫁いできたのはいいが、己の性格が災いして夫の兄妹や親族に馴染めなかった。父の甲斐性の無さと、周りの人間の冷たさを、ゴミの山の中で我が子に食事を与えながらこぼす毎日。どんどん孤立する悪循環の中、捨てられないモノと犬猫を心の拠り所に、ゴミ袋の壁を造って閉じこもる生活になっていく。
そこへ、二人目の孫を授かった息子が同居話を持ちかけてきた。しかも建築会社から何から選ばせてくれて、夢だった設計まで最優先で意見を聞いてくれるという。
喜んで資料を図書館で揃えて、アイデアを好きなだけ提案する楽しい設計が始まる。設計士に何度も書き直しをさせて、お気に入りの設計が出来上がったと思ったら、息子と衝突。勢いで、「同居なんてしない!」宣言をしてしまう。意固地になって、なんやかやしていると解体の日が迫ってきた。業者に苦笑いされながら、荷造りに追われる。家族の手伝いも素直に受け入れられず、結局一人でやることに。そして、当日まで出来ずにいる。


自業自得もいいところだ。この日までゴミ屋敷の解体が私にとって最大のイベントだと思っていた。しかし、夢にまで見た、母がゴミ屋敷の片付けをしている姿を目の当たりにして、込み上げる嬉しさを堪えきれなかった。
恥ずかしさや、憐れみや、変な達成感が溢れて泣いていた。