「じいさま、病気なんだわ。…認知症っちゅうの」

帰省しておはぎを食べている我々に、私の祖母が悲しい顔をしながら祖父が認知症だと打ち明けた。
そして帰り道、妻は泣いていた。「...どうして、わかってあげられないの...」と呟きながら。


突然怒鳴り声を発し続ける祖父を目の当たりにしたのは、私も妻も息子も初めてのことだ。余りにも衝撃的過ぎて三人ともしばらく固まっていた。重い空気と祖父の独り言が仏間を支配していた。
「みんな集まっとる日くらいやめりん。」と祖母が祖父に言うも、一向に収まる気配がない。父やその兄妹は見て見ないふりをしている。

しばらくして妻と母を家に置いて、残りの人間で食事に出た。その間、叔父に認知症の件で相談したが「アレが始まると、収まるまで話を聞かないから聞き流すしかない。」と言うだけだった。たまに聞く分にはそれで良いだろうが、同居となるとそうはいかないだろう。日中は仕事で家を空ける私と違い、常に家に居る妻にもう同居を強いることはできない。

「片付けられない女」と「呆けた老人」との同居。もう説得の余地はない。

そして帰りの車中、「...どうして、わかってあげられないの...」と呟きながら妻は泣いた。母に非道いことでも言われたか、と思ったら私を責めているようだ。
母とゆっくり認知症の祖父について話し、強く共感したらしい妻は、今後の同居について話しはじめた。