住宅設計の要『台所問題ー2』


「私の台所なんだから侵入しないでほしいのに!」見知らぬ土地に嫁いで生活してきた母が、常々私に愚痴っていた言葉だ。
姑である祖母だけでなく、父も私も幾度となく荒れた台所を片付けようと試みてきた。しかし、毎度ヒステリックに「なにも触らないで!」と拒絶された。台所は母にとって、姑はもちろんのこと、他人に触れられたくない最大の聖域なのだ。
厄介なことに、二世帯同居の母屋には台所がひとつしかない。私も含め家族は、共用の大事なスペースである台所を片付けられない母を理解できなかった。そうして対立を重ねるうちに、母は家庭で孤立していく。更に片付けられない台所に拍車がかかる悪循環だった。

私の祖母はもう八十を過ぎたが、火は使わなくても専用の流し台はやはり欲しいようだ。妻も、マイホームの台所はカウンターでああしてこうしてと、とても楽しそうに話す。揉め事は極力避けたいので、今回は三世帯それぞれのキッチンが必要だなと考えた。

片付けられない家の台所と付き合ってきた我々にとって、今回は荒れた台所から脱出できる最大のチャンスだ。母は嫌がっていたが、私はリビングからつながるカウンターキッチンを設置したいと思っていた。開放的なLDKだ。台所としての個室を母に与えても、今と同じことの繰り返しになるから。
ただ、マイホームをあまり積極的に考えていなかった妻にさえ夢の台所があるように、母にも「建て替えるのなら絶対このキッチンにする!」という夢があったらしい。それはアイランドキッチンだった。

「いやぁ、奥さん。常に片付けて全て収納しておかないといけないから、アイランドは難しいよ。(汗)」
遠回しに設計士が助言するが、母は聞く耳を持たない。その時は私と妻は苦笑していたが、ショールームで目を輝かせながらアイランドキッチンの説明を受ける母を見ると、笑えなくなってきた。

まぁ、いいんだけどさぁ。自分でハードル上げ過ぎてどうするんだよ。